ティファナとサンディエゴ

メキシコとアメリカの国境を歩くシリーズ。

シウダー・ファレス&エルパソに始まり、レイノサ&マッカーレン、ヌエボ・ラレド&ラレドに続く4か所目として、大本命のティファナ&サンディエゴに行ってきた。

 

中国と香港・マカオ国境、シンガポール・マレーシア国境あたりとも肩を並べる巨大国境は必見だと思うが、人生の後半でやっと初訪問。結構後回しになったなあと思う。

二の足を踏む原因は、やはりアメリカ国境の街の治安の悪さだ。日本の海外安全情報でも、メキシコシティは危険度1だが、国境沿いの街は危険度2になっている。麻薬カルテルの縄張り争いで、日々多くの死者が出ている。去年は日本人のラーメン店主も殺された。では街はどうなっているのか?人が離れて衰退する?答えは全く逆だ。

 

メキシコは基本的に北部の国境に近いゾーンとその他で最低賃金が分かれていて、北部の方が高い。生活水準も高いといえる。マキラドーラという国境沿いの非関税地区には世界中のメーカーが進出しているし、景気はいいので人はどんどん集まってくる。ティファナ市民は、合法的にサンディエゴで働いていることも珍しくない。



今回もまた、LCCで新空港から出発。大体飛行機のチケットは半年とか数か月前くらいに取ると安いので、事前に買っておく。そうすると、今回のように麻薬組織が街に外出禁止令を出し、バスが片っ端から燃やされ、帰宅難民化したバス待ちの混乱とゴーストタウンの街の写真がニュースに出回った翌週に出向くことになる。

まあそんなことはめったにないからニュースになるのだが、今回はナイトクラブも一日閉店したとのこと。ティファナのアメリカ大使館は、この夜、ソーシャルメディアでも警告を出していた

行く前に下調べをすると、大体そんな感じのニュースしかない。週末の死体カウントは、高速道路に毛布でくるまれた死体、ティファナ川に上がった死体を捜索する警察など・・そうか、この川を渡ってアメリカへ歩いていくんだな、という感じだ。

翌週ニュースは一段落し、Twitterあたりで検索すると売春をお楽しみ中のtweetが出てくるだけになったので、行くことにした。



国境の行き方や観光に関しては、まあ色々とネットに情報はあるので大体その通りだと思う。
メキシコの空港は構内でタクシーを頼むと結構高いが、一般道まで出れば路線バスやタクシーが見つかる。Googleマップストリートビューを見て見当をつけ、車の駐車場の方へ回って通りに出たらバスが待っていた。市内バスは14ペソ。帰りはDiDiで100ペソ弱。

ティファナのバスの運転は荒いと言われていて、メキシコのネットでもネタになっている。確かにメキシコシティでも見ない、なかなかの運転だった(メキシコシティのバスに比べ、車が新しいのもあるかも)。一方、国境を挟んでサンディエゴの路線バスにも乗ったら、追い越しの車が完全に追い越すまで発車しないという安全運転ぶりで、苦笑するしかない。人種的には同じなのに、そこには国境がある。

 

国境で捨てられていたマスク。メキシコはマスクが多数派だが、アメリカでは少ない



ティファナはかなり起伏のある街だ。空港からセントロに向かうバスは、急坂をカーブして下っていくのだが、崖にへばりつくようにして民家が密集する光景を見ることになる。サンパウロのファベーラなど、中南米でよく見る光景だ。
起伏があるのはサンディエゴも同じで、サンディエゴのダウンタウンからアジア系の店が集積するコンボイエリアに行くのも、ミッションバレーという谷やら、ちょっとした起伏を超えていくのだが、アメリカでは勾配がある美しい郊外が広がる。
隣同士の都市なので、実質的には同じような地理条件になるのだが、開発のされ方、見え方が全く異なるところが面白い。

そんな感じで、この両都市を箇条書きにしてみよう。

ティファナは・・・

  • お世辞にもきれいな街とは言えない
  • 景気はよさそう
  • メキシコの感覚からしても物価が高い
  • アメリカ人を気持ちよくして金を取ることに最適化されている
  • バスはやたらと速く走る

サンディエゴは・・・

  • 美しい
  • 高級コンドミニアムタワーに青い空、ピカピカのトラム
  • ロスよりは安いものの、まあため息しか出ない物価
  • ダウンタウンはホームレスがいっぱい。排除アートも久しぶりに見た
  • カリフォルニア的郊外に広がるアジアンタウン。歩行者もホームレスもいない
  • バスはとても安全運転

東京でもよく見る感じの、サンディエゴの排除アート

 

メキシコ側からアメリカは、列に並び始めてから大体1時間半くらいかかった。「アグア・デ・ハマイカー、トレス・ドラレス」とメキシコで考えると想像もつかない値段で飲み物を売りに来るので、並ぶ前に水だけは買っておくべきだ。

外国人はゲートから入って、右手側のオフィスで6ドルの支払いと、チェック。その後もう一度列に戻り、入国審査ブースにて審査だ。

アメリカ側からメキシコは、外国人のみメキシコ入国のチェックがある。私はメキシコのレジデントカードがあるのだが、今回初めてメキシコ人用の通路に案内され、ノーチェックで入国できた。

やっとメキシコ人扱いをしてもらえて、正直うれしい。

 

ちなみに1時間半とか2時間列に並ぶのは耐えられない、という場合、ティファナの空港からアメリカに直接入るCBXという橋もあるのだが、18-25ドルかかる上、シャトルバスも高い。なかなか資本主義的で興味深いビジネスだなと思うが、子供を連れて家族で行くとかいう場合は、私も使うかもしれないなと思う。

 

サンディエゴの最低賃金は15ドル。スペイン語表記だけ


サンディエゴもティファナも海産物が豊富で、サンディエゴはウニが有名だ。日系スーパーのNijiya Marketでは、ウニが山盛りで売られていたし、日本料理店ではうに丼時価)がメニューにも載る。

そしてティファナとかメヒカリとか、国境沿いはマイクロブルワリーのビールが結構有名なようだ。暑い中ふらふらしていたらビールが飲みたくなり、2杯飲んだら酔っ払い、私のティファナの夜はあっけなく終了した。


EL PAISというスペイン語の国際紙が、外出禁止令後のティファナに関する記事を出していて、ざっとdeepl翻訳で読んでみた。(メキシコに住んで3年以上たつが、そのレベルの語学力だ)

光都市として活気があり、多くの工場を抱え、文化的な生活も充実している街は、「経済成長を維持するための通行料として、暴力という小悪に慣れてしまっている。」
毎晩のように撮影される遺体という日常が戻ってきたが、日々の生活には何ら支障をきたさない。
自らを精神的に守るために、「悪い」犠牲者を軽蔑する風潮と、「殺し合いはしてもいいが、市民は安らかに眠らせろ」という発想。

スペイン語のこういう文章は日本の新聞などと異なり、詩的だなあと感じるが、なかなか上手いと思う。



ちなみに今回一番ヒヤッとしたのは、サンディエゴからサン・イシドロの国境に向かうトラムの中で、ブツブツ呟いているおっさんが自分の隣の席に座り、いきなり折り畳みナイフをパカっと開けた時だった。まあ・・・アメリカも色々ある。