ニューヨーク限界旅

15年ぶりにニューヨークへ行ってきた。今時、全てが目玉が飛び出すくらい高いニューヨークに行こうとすると、3つの限界に挑戦するしかない。

  1. 限界便
  2. 限界宿
  3. 限界飯

もはや何かの苦行のようなものに近くなってきたが、一応の目的はVRグラスを買うということになっている。子供がゲーム機(Nintendo Switch)を欲しがるのだが、私はあんまりNintendoを買いたくないので、メキシコでは公式には売っていないMeta Quest 3でも買ってくるわ、という名目で家族の白眼視から逃れ、航空券を買った。もちろん今行くんだったら話題のリンゴマークの方を買いたいところだが、そんな値段ではアレだ。


1. 限界便

チケットは9月に買ったのだが、NY行きの安いチケットは主に観光に適さない酷寒の1-3月を中心に出回る。例に漏れず1月末の深夜便で、メキシコ発エルサルバドル経由のNY行きが230ドルだった。

今回乗るのはアビアンカ航空でコロンビアのフラッグキャリアだが、コロナのタイミングでチャプター11を申請し、あっさりとフルキャリアを捨ててLCCモデルに転換してしまった。手荷物はリュック以下、5時間のフライトでも水は有料という限界スタイルの割には、決して安くない値段でチケットを売っている。

もっぱらLCCの私は空のペットボトルが必須となり、セキュリティ・チェックの後、水を汲んで搭乗に備えるという浅ましい行為をせざるをえないが、調べると、乗り継ぎのエルサルバドル空港はシンガポールチャンギ空港のように、各ゲートでセキュリティチェックを行うタイプの空港なので、セキュリティ後に水を入手する方法が物理的に存在しなくなるというLCC乗客泣かせのオチが付いていた。

やれやれと思いながら搭乗したら、なんとボーディングブリッジのところで水を一人ずつ手渡しているではないか。思わず大袈裟に感謝してしまったが、こんなことで顧客満足度が爆上がりするのだから、ぜひ続けてほしい。
全ての便が時間通りで、悪くはないフライトだった。

 

2. 限界宿

ニューヨークは宿が高い。
ドミトリーでも$100以上、普通のホテルは$150からという感じだ。私はあまりドミトリーが好きではないので、個室を探すが、どこも狂ったように高い。

比較サイトで最安なのは評価の数字もぶっちぎりで低いが、背に腹は変えられない。さらに、冬に行く場合は滞在中できるだけ暖かい場所を確保しておくことが重要だ。今回は早朝について一泊し、その翌日の深夜便で戻るのだが、高い宿に1泊して翌日の朝から宿がない状態よりは、安い宿を2泊分予約して夜まで宿にとどまれるようにした方が、疲れが少なくなる。

ということで、一泊$45ほどの宿(自称個室)を予約した。Business Insiderが、この限界宿のレビューをしていて、ちょっと笑ってしまったが、読む限り問題ないなと思っていたら、秋口ごろから毎週Bed bug(南京虫)の口コミが続々と現れ、頭を抱えることになる。

壁が薄くてうるさいとか、ゴキブリが出るとか、トイレが汚いとかそういうレベルは耐えられるので全く気にしないのだが、南京虫は蚊に噛まれるレベルではないので、そういう口コミの宿は避けたほうがいい。今回はタイミングが悪かったが、NYのbed bugはいい宿でも出ることがあり、値段の問題でもないようだ。
南京虫対策はベッドマットのチェック、バックはビニール袋で密封、電気をつけてアイマスクをして寝るなど、なかなかタフだが、やってみることにした。

で、泊まった結論としてはこれでよかったんじゃないかなあ、という感じだ。フロントの隣の部屋を割り当てられ、多少やかましかったが、夜は概ね静かだった。
シーツをめくって見てみたが、マットレスは綺麗で、シーツに南京虫はいたが死んでいたので、まあ大丈夫だろうとそのまま寝たが、特に問題なかった。

私の便もそうなのだが、中米からの航空便はやたらと深夜早朝に着発が多い。コロンビアのお姉さんの家族が深夜4時に宿の予約なしに着いて満室だったらしく、「なんで予約せずにくるのよ!ちゃんと予約してって私いったでしょ!」「いまから宿探さなきゃ・・」などと興奮している声で目が覚めたが、すぐにまた寝てしまった。
今や完全に上達を諦めたスペイン語だが、お、ちょっとは何言ってるかわかるぞ、という自分に苦笑する。

翌日は上の階の客が、隣がうるさいとフロントに苦情を言っていた。騒音元はどうも主のような長期滞在客のようで、フロントも、「仰ることはわかりますが・・今晩も酷ければオーナーに伝えて、対応してもらうようにします・・」という感じ。

共同のトイレがひどい状態になっている時もあったが、次にみたらトイレはきちんと掃除されていたりした。通路も何度も掃除しているところを見たので、適当なモーテルなんかよりもよっぽど掃除の頻度は高いような気がする。フロントもそれぞれの客にはフレンドリーに対応しているし、クレームにも少なくとも耳を傾けている。
決して努力をしていないということではない。

そう考えると、アメリカで安くて良いサービスを受けるというのは、構造的に難しいんだろうと思う。値段が安いと、筋の悪い客が含まれる可能性が高まるものだが、アメリカはいい意味でも悪い意味でも多様性の国であるために、その可能性が他国に比べ圧倒的に高い。さらに、他の客はダイレクトにそのことをクレームする。
日本のように、安いんだしみんな少しは我慢しながら使わせて貰えばいいか、などという発想には絶対ならず、誰もが少しずつ不幸になる。結局、ある程度の値段にして、足切りをすることがセキュリティになってしまう。

全然おすすめはしないが、チャイナタウンという利便性に優るものはなく、自分はまた機会があれば泊まると思う。

 

3. 限界飯

NYはラーメン1杯が5,000円、というのが一時期SNSでよく言われていたが、実際その通りなので救いようがない。
とはいえ、都会なのでここは色々とオプションがあるなという感じだった。高いのはチップも一因なので、テイクアウトなんかでこれを回避するようにする。そもそも一人飯なので、きちんとしたレストランは敷居が高い。

北米方面から日本や中国行の航空券は高騰しっぱなしで、以前と比べると平気で$300-500くらいは値上がりしている。まあNYでラーメンを多少食っても、それで日本に行かなくてよいのなら安いものだ・・という言い訳が私には成り立つので、高いラーメンは許して欲しい。
それ以外は安くて美味いものを探して食べた。安くて美味い食べものを手に入れるにはどうするか。答えは寒空の下で行列だ。ざっと食べたものを書いておこう。

それにしても、NYの食べ物屋の行列はやたらとアジア系が目立つ。地下鉄の人種分布なんかとは明らかに違うのは、どういうことなんだろうか。アジア人は並ぶのに慣れているのか、自己犠牲の上に成り立つ何かを信じているのか。
まあメキシコシティでも並んでいるタコス屋とかがあるので、別にラティーノが並ばないとは思わないが、よくわからない。


1. ユッケジャン @Gammeeok
深夜5時に空港から出ると、寒くて震えがくる。ダンキンドーナツとかマクドナルドの灯が手招きするが、最初くらいチェーン店から離れたい。ちょうどNJへ向かう駅で乗り換えなので、近くのコリアンタウンを歩いてみることにする。いくつか24時間営業の店があって、チゲでも食おうかとこの店へ。
どうもソルロンタンで有名な店らしかったのだが、ユッケジャンも牛ダシがよく効いていて、一口目で思わず感心する。キムチも山盛りで、乳酸菌の酸っぱさも素晴らしい。早朝はそれほど客もおらず、ちょうどシフトの交代のタイミングのようだった。多少長居ができ、体も暖まる。朝6時にまともなものを食べたいならレストランに行くしかない。$29.5、チップ18%込み。

2. ラーメン @一蘭
日本と全く変わらないが、私の場合、メキシコの自宅から一番近い一蘭なのは間違いない。ラーメン$23.95、値段にはチップが含まれる。20分くらい並ぶ。

3. 焼臘飯 @Wah Fung No 1 華豐快餐店
チャイナタウンを歩くとひときわ長い行列。5ドルから焼臘のぶっかけ飯が買えるが、私は鴨のローストが好物なので、三寶飯に。現金オンリー、缶ドリンク込みで8ドルもしないが、30分は並ぶ覚悟で。今回食べたものの中で一番列が長かった。
宿に戻るのも面倒だったので向かいの公園で食ったが、鴨の一口目に唸らされる。

4. ピザ @Scarr's Pizza
夜、もう寝ようかと思ったが、深夜のピザは3倍くらい美味く感じるので、店まで行く。前の行列の兄ちゃんは日系人らしく、日本語とスペイン語も話す。彼のおすすめで辛いピザにHot HoneyソースをかけるHotboiのスライスを食べたが、ちょっと忘れえぬ味という感じだった。
もっと安いピザ屋はあると思うが、ここは一度試した方がよいと思う。かなり大きめのスライスピザ2枚とコーラで$12.5。

5. パック寿司 @Wegmans
東海岸にたくさんあるスーパーらしいのだが、マンハッタンにも最近店ができたらしい。やたらと魚が充実していて、Sakanayaコーナーがある。刺身もすごい品揃えだし、アメリカのスーパーで初めて魚の干物を売っているのを見た。築地の卸と一緒にやっているらしい。一方で握りと巻物のパック寿司は$16.99、普通の味だった。

6. 餃子 @Jin Mei Dumpling 津美鍋貼
NYの定番B級グルメ、Dumplings。餃子15個入り$5。餃子の王将の持ち帰りよりも安い気がする。迷って肉饅$5にしたが、餃子の方が良かったかもしれない。どちらにしろ満足して、腹一杯になる。この満腹感は餃子にかなうものがない。

7. Smoked Pork Ramen @MOMOFUKU Noodle Bar
NYのラーメンは特にローカライズせずにそのまま日本式を持っていって、そのまま受け入れられている珍しいパターンだが、一方で、アメリカ人シェフのローカライズが入って有名店になっているところもある。この店はNYのラーメンブームの代表例とも言える店らしい。
まあピザも寿司もラーメンもタコスも、一度アメリカに入ってそれが世界に広まるというパターンを踏むことが多いので、ここメキシコの一般的な日本レストランで出てくるラーメンはこの店のスタイルに近いと思われ、どのくらい美味いのか少し気になっていた。
メキシコのラーメンはスープがぬるめ、麺の湯切りが甘く麺がくっつきがち、ダシよりも醤油の塩辛さが強い、という感じだが、さすがにここは料理としてきちんと完成されている。麺はつるっとしていて、面白い食感だ。

醤油の辛さを強く感じたが、なるほど、という感じだった。チップ20%込み、$27。まさにラーメン一杯をカウンターで食べるだけで5,000円コースだ。

あとは、屋台飯のチキンオーバーライスを食べようかと思っていたが、今回はさすがにこれ以上食えないので、次回に回すことにして、終了。

 

昔からこういう妙なNYへの憧れみたいなものに不思議さを感じていたのだが、上を見ればキリがない一方で、下もそれなりのオプションがあるのは、さすが懐の深い都会だ。

15年ぶりに行くと、バスもちゃんと画面に次の停留所を表示してくれるし、地下鉄も相変わらず汚い駅だが車両はそれなりに新しくなっていたりと、一定の進歩が感じられた。前回はバスの釣りも出ず、小銭の持ち合わせがない場合周りの乗客に助けてもらわざるをえないような頃だったが、今はクレジットカードのタッチ決済で大抵事足りる。

街を歩いても地下鉄に乗っていても、男女問わず、時々ああセンスが良いなあと思わせられる人がいて、この街はファッションの意味がまだ生きてるんだなあと思う。まあ平均で言うと東京とかソウルの方が小綺麗だと思うが、アメリカもメキシコと同じように、平均を語ってもあまり意味がない国だ。