セルビアとモンテネグロ

バルセロナ空港で、やたらと奥の方にあるベオグラード便のゲートへ進んでいくと、少しずつ周りに違和感を感じ始める。

周りの人が妙にデカいのだ。スラブ系の顔つきと、男性に角刈りが多い感じがロシアっぽいが、高さが違う。どうやら、この辺りの人たちは平均身長が高いらしい。今調べてみると、各国の平均身長ランキングでは、バルカンの国がずらっと並んでいる。

ちなみに現在のセルビア大統領も世界で最も身長が高いリーダーの一人らしく、報道写真の構図としてちょっとおかしい。頭を切っちゃダメだろ。

ヴチッチ大統領(身長2m)france24.comより


数年前、子供の幼稚園で顔を合わせるようになった人が、私と同じようにメキシコ人と国際結婚したセルビアの人で、彼の経営するバルカンレストランに行ってみたら妙に美味しかった、というのが私のセルビアとのファーストコンタクトだった。

その後、子供の学校は別々になったものの「子供が父親側の言語をちゃんと話さないので、セルビアに戻ることにした」という話を聞き、私もちょうど子供を1年くらい日本の学校へ通わそうかなと考えていたタイミングだったので、勝手に親近感を持ったりしていたのだが、子供がふと「エマに会いたい」と言ったのに乗じて、セルビアへ行ってみようかと考え始めた。

今年の年初、日本行きのチケットはいつまでも高値しか出てこないため帰省を諦め、代わりにヨーロッパ方面の比較的安めのチケットを購入した。
ヨーロッパは一度域内に入れば何なりと安めの飛行機や鉄道が見つかるので、どこでも良いので半年前くらいまでに別の大陸から安い都市へ入るルートを確保し、そこからの移動や宿は数ヶ月前くらいに買うのが概ね安くなる。人々が夏休みの予定を考え出す少し前くらいに域内の宿と交通を確保した。

メキシコからマドリードに入って、ベオグラード、アドリア海のビーチハウスでも借りて少し滞在し、マドリードに戻るという形で考える。ベオグラードはバルセロナ経由で鉄道と組み合わせ、戻りのポドゴリツァ発はポーランドのクラコフと迷ったがジュネーブ経由にした。それぞれ航空券代が直行の半分くらいの値段になる。

スペインの高速鉄道は上下分離でフランス系、イタリア系の鉄道会社と競合になっていて、飛行機同様に事前だとかなり安値のチケットが見つかる。今回はiryoというイタリア系の会社を使ったが快適だった。
ベオグラードから海岸へは鉄道が通っていて、景色が良い路線として有名なのだが、インターネットでチケットが買えない。さすがにバケーションシーズンに当日寝台列車を抑えるのはちょっと怖く、今回は宿に頼んでチケットを購入してもらった。


このあたりは色々と歴史の宝庫で、ローマ帝国からNATOのセルビア空爆まで調べ甲斐がある場所だ。
個人的には旧ユーゴの建築、France24の記事にもあるノヴィ・ベオグラードの巨大建築や計画都市的なパースにどうしても惹かれるところもあるが、ベオグラードは川沿いに広がる歴史地区と城塞など、魅力的な街だなと思った。ニシュも同じように川沿いで城塞がある。歴史的な街で、しっとりとしていていい。

france24.com © Andrej Isakovic, AFP

Novi Beogradの巨大アパート


アドリア海の海岸沿いはイタリアのヴェネツィア領だった。SutomoreもSpizzaと言ったらしい。まるでピザ屋の店名のようだ。点在する街はそれぞれイタリア名があって、現在の名前と照らし合わせてみるのが興味深い。

海の都の物語 塩野七生著より。ドゥブロヴニク = ラグーザなど、言語で異なる地名

 

セルビアは戦争の時に断罪された側というイメージがどうしてもこびりついていたのだが、高速の途中で「コソボはセルビア」のペイントを何度か見かけて、政治的な匂いを感じたくらいで、まあシステムは基本的にヨーロピアン・スタンダードで、旅行にはほとんど違和感がない感じだ。

 

訪問先の家で、日本は人口減でなかなか将来厳しいからね、という話をしたら、セルビアも同じように人口減少してるし、戦争の影響は大きかったからね・・という話になった。

 こちらも今調べてみたら、2050年に向けて人口減少する国のワーストリストは、日本と韓国に加え、東欧やバルト三国の国がランクインしていて、ワースト1はブルガリアなのを初めて知った。
日本・韓国は主に少子化が要因だと思うが、これらの国々はEUの中心国に人が惹きつけられるのと、酒タバコあたりが要因なのか。セルビアが複雑なのは移民の送出国でもあるが、クロアチアやボスニア・ヘルツェゴビナなどから流入したセルビア系の移民も多かったらしい。

物価はまあこの円安時代で大体日本と同じくらいという感じだったので、ドルやユーロ圏から見ると安いのだろう。アウトソーシングのようなリモートワークをしているとよく出会うのがフィリピン人だが、そこそこセルビア人も見かける。教育水準の高さと自国の給料水準がマッチしてないのかもしれない。
日本人の旅行記でセルビアの話を書いている人も、オンラインの英語クラスを受講したら教師がセルビア人だった、というパターンを見かける。


人種的に異なるハンガリー、ラテン系のルーマニア、ムスリムのアルバニア、カトリックのポーランドなど、それぞれ微妙な違いがありそこに国境がある、という意味で色々と興味深いエリアなのだが、大きな括りではヨーロッパなので、個人的に旅行を後回しにしていたら家族もでき、なかなか国を渡り歩く旅行がしにくいようになってしまった。

ベオグラードからニシュの高速は結構トルコ語とかトルコナンバーのトラックが目立ち、そういうルートとして使われているんだなというのを再認識するのだが、そうなるとバスでイスタンブールまで行きたいなとか、ちょっと消化不良感は否めないのだが、まあ入り口の旅としては悪くなかったかな、と思う。


最後に一つだけ。ベオグラードの市バスはバス内では支払いができず、アプリからのみ料金を支払えるという記述が日本語でも英語でもいくつかあるのだけど、普通に運転席の横に端末があって、一回券や一日券をクレジットカードのタップ決済で買うことができるので、心配しなくても良い。