メキシコで車を買った。
メキシコは車社会の上、幼児がいて、嫁の実家は地下鉄の駅から歩いて20分以上というような状況だと、車がどうしても必要になる。中古車を当初探したのだが、年数があってもあまり値段が落ちてこないマーケットのようで、新車になってしまった。
買ったのは、SEATのArona。いわゆるBセグメントのミニSUVとかクロスオーバーといわれるものだ。
皮肉屋のイギリス人が言う通り、SUVなんてのは一頃のミニバンと同様の流行りもので、買いたくて買うようなものでもない。
とはいえ、以前FIAT500を買ったようにこれしかないという訳でもなく、少し比較検討をしたので、感じたことを書いておこうと思う。
同じ車が日本より安い
メキシコでは大衆向けモデルは概ね新興国バージョンになり、同じ車種でも日本の感覚からすると少し安いなと感じる。例えばVWのPoloは日本だと最低200万円くらいかと思うが、ここでは150万円くらいのイメージだ。
安いのにはもちろん理由があり、メキシコのPoloはインド製で、エアバックも2つ。先進国向けにはダウンサイジングターボエンジンのTSIに、DSGと呼ばれる多段の自動変速機が組み合わされるケースが多い気がするが、こちらでは通常の自然吸気エンジンにZF社のTiptronic、いわゆるトルコンATの組み合わせになる。また、ヨーロッパで強いディーゼルエンジンもほぼ見かけない。
ガソリンのオクタンが87と92の国なので、プレミアムガソリンを頑張って入れるよりはレギュラーを自然吸気エンジンで使っておけ、ということだろう。メーカーもTSIのほうはプレミアム推奨、他はレギュラーでどうぞ、というスタンスのようだ。
また、いわゆるラテン圏として、小型車はマニュアルという志向も強い。ルノーのKWIDを当初検討したが、インドマーケットではATのモデルがあるのに、メキシコではMTのみとなっていたので、選択肢から消えた。また、全体的にMTモデルとATモデルの金額の差が大きい。
一方で、高級車は基本的にグローバルで概ね同じ商品となる。ドイツやアメリカでの生産という感じで、買える人は買えばいいが、大衆車と違い生産国の分散は少なく、グローバルなプロダクトとしてはあまり面白くない。
新興国マーケットのダイナミズム
日本車が強い東南アジアを別として、メーカーが考える「新興国マーケット」の中心はインドとブラジルのようで、インドで強いスズキはSUVなど、いかにもインド市場向けのものを持ってきました、という感じのラインナップだ。
他メーカーでも、先に述べたVW Poloやルノー KWIDの他、HyundaiもミニSUVがインド生産のようだ。また、ブラジルでシェアトップのFIATはブラジルモデルが幅を利かせている。
一方でアメリカ向け輸出の基地としてメキシコに工場を置くメーカーは多いため、そのまま売られるアメリカモデルも強い。なんだかんだ言ってもアメリカメーカーのシェアは高く、GMシボレー、FORDはよく見かける。
そして、旅行で来るたびにマツダ車が目立ってきていたが、マツダは概ねアメリカと同様のモデル設定で売っているような感じだ。工場があるからなのかは良く分からないが、こちらでは日本より先に新型Mazda 3を売っていて、デザインでよく目立っている。
また、アメリカマーケットの特色はとにかく幅が広いことで、KIAのSoulなど、横幅が1.8mを超える小型、というのがアメリカ的な感じだ。
代わりに、ヨーロッパ向けマーケットで比較的目立つようなコンパクトカーがあまり好まれないようで、ルノーのTwingoは導入されておらず、VWもUp!は終売となってしまった。
尚、メキシコは日産が比較的強く、一昔前の日産サニーベースで独自進化した「TSURU」がタクシーとして数多く走っている。ブラジルのように、自国に工場がある海外ブランドの車が主に流通するようなマーケットだった時代から早々に進出していた名残りで、そこそこのシェアがある。日本生産が無くなって新興国向けとなったマーチも、タイやブラジル、中国などと並び、メキシコで作られている。
中国メーカーも一定の勢力に
最後に面白いのが中国メーカーで、先進国ではほぼ見ないメーカーがいくつかメキシコにも進出している。
メキシコではJACこと江淮、BAIC北汽がまあまあ安いSUVを中心に販売しているようだ。中国のSUVで強い哈弗Havalはアルゼンチンのサイトがヒットする。あとはCheryの奇瑞あたりか。
中国市場もご多分に漏れずSUVの人気が高まっているようで、2019年の販売台数で44%をSUVが占めている。
2019年汽车销量排行榜 东本罕见反超广本_独家新闻 - 车主之家
ただ、中国市場はEV(電気自動車)にだいぶ寄ってきているようだ。JACはメキシコで今年からEVを生産・販売することを発表している。次に車を買うときはEVも検討することになるのかもしれないが、ここは産油国メキシコなので、そんなに簡単な話でもない気がする。
VW系のクルマ構造
メキシコではJAC Sei2(江淮瑞风S2)がノックダウン生産で販売されていて、試乗までしたのだが、剛性感覚とかをVWのプラットフォームを使うAronaと比べてしまうとつらい感じだった。SEATの8掛けくらいという感じで、15-20万ほど安かったのだが、もう一息という気がしてしまうのだった。
日本のメーカーは概ね車格に応じた車台構造という感じが強いが、VWグループの各社はMQBと呼ばれる車台プラットフォームを使ってくる。車台の上に乗せる車体は、高級車でアルミなどの複合素材で強く軽く、大衆車はホットスタンプ鋼で強度を作るという感じで、主に街乗り用途として走行性能を重視しなければ、大衆車でいい気がする。
SEATといえば、なんだかあか抜けない車という感じだった気がするが、VWの子会社になってからは共通化が進み、Škodaと共にVWの車台を使ってそこそこレベルのVWクローン車を作るようになっている。
VWにも同じ車台のMQB-A0でほぼ同じサイズのT-CROSSという車があるのだが、メキシコではVWのブランドになると高くて手が出ない。SEATだと安いのが取り柄だ。
では車種を比べてみよう
必要な装備は、オートマとカーナビ。日本のように独自のナビは発達しておらず、一足飛びにApple CarPlayかAndroid Autoの時代になっているので、大体新車だとここは問題ない。
SEAT Aronaは安いグレードでも画面だけは付いていて、別料金のアクティベートで携帯接続に対応する。
ということで、SUVの中で比べると、SUZUKIのVitara(エスクード)、ルノーキャプチュール、ホンダBR-V、マツダCX-3、Hyundai Cresta、トヨタC-HR、日産KICKSあたりが直接の競合という感じだったが、日本メーカーは全体的に高い。唯一値段がそこそこの日産KICKSは安いモデルでエアバッグが2つという時代錯誤感もあり、選択肢から外れた。
HyundaiはアメリカとヨーロッパでSUVのKonaを投入していて評価が高いようだが、メキシコではCretaという新興国向けモデルになっており、感じが悪いのでパス。
SUZUKIかルノーかSEATかという感じになったが、まあデザインでSEATかなという結末だった。
そもそもSUVって
小型SUVはある意味妥協の産物なので、値段で見ていくと、本来の悪路走破性を高めて両輪駆動モードを備えるというジャンル定義がほぼ消えて、単にシートポジションが高いというだけになっているものが多く、特に新興国向けはそんな感じだ。
ルノーもSEATも4WD設定がない中でSUZUKIは頑張っているが、手が出しにくい最上級グレードのみだったりして、まあ価格志向が高いマーケットにはしかたないね、という匂いが漂う。まあ自分は安い車が欲しいのであって、ちょうど良いのだが。