2008年、香港から北京までバスを乗り継いで旅をした途中で、武漢に立ち寄った。その時、なんとなく銀行口座を作ってみたことが、私と中国との長くて終わりのない「戦い」の始まりだった。
当時はまだ、旅行者でも日本の電話番号とパスポートさえあれば簡単に口座が作れる牧歌的な時代だったが、今や中国は、圧倒的なテクノロジーの利便性と管理社会が表裏一体となった「システム」へと変貌している。その進化の過程で鳴り響くアラートに翻弄され続け、結局は何度も現地へ足を運ぶことになった。
口座を作ったものの、オンラインバンキングや決済サービスが普及しSMS認証が必須になってきたため、中国の携帯番号を取得した。しかしその後も、武漢と上海で別々に作った口座の名前が漢字とローマ字で不一致を起こしたり、パスポートを更新するたびに「新旧の番号が同一人物である」という証明書を日本大使館でもらって窓口へ行かなければならなかったりと、手続きのハードルは上がる一方だ。
今回は、携帯の名義変更に武漢へ向かった。昔は道端で簡単に買えた他人名義の古いSIMカードを使い続けていたら、不審回線扱いとなってしまっていたのだ。AIですら「難しい」と断じるような手続きはなんとか完了させたものの、次はキャッシュカードの期限が迫っているという具合に、次から次へとイベントが発生して終わりが見えない。
こう話すと、普通の人にとっては非常にネガティブな話に聞こえるかもしれない。しかし、社会の観察が趣味の人間にとっては、なかなか興味深い体験になる。最近の中国では、銀行や携帯会社、アプリ、航空会社などの窓口担当者のレベルが、以前と比べて向上してきていると感じる。日本に住んでいるとピンとこないかもしれないが、私の本拠地であるメキシコや他の国で受けた対応の中には、解決を放棄されたり、その場しのぎの回答で堂々巡りになったりするケースも多々あった。
ちょっと前にアメリカのeBayで買い物をした際も、一人目の出品者は全く送ってこず、二人目は配送方法の指定を守らずに関税の負担が変わってしまうなど、久しぶりにひどいレベルの対応を味わった。今や中国のAliExpressや京東などでは、このような問題に直面することも少なくなった。いつの間にか、中国系のサービスの方がよほどまともになってきているのではないかと感じることがある。
もちろんこれらは非常に個人的な体験であり、それを一般化して話すのは微妙なところだが、何度も同じ銀行に通ってみると、全体として感じる印象はある一つの方向性をもっている。中国では、お上が躊躇なく後付けでルールを変えていくし、人は相変わらず表情豊かにメンドクセというか困ったなあという本音がダダ漏れするのは以前と変わらない。しかし最近は、問題に対して言われたことだけをこなすのではなく、相手の立場を想像して全体的に解決してやろうという対応が増えてきたように思う。
今回は、メキシコで知り合った友人と天津で久しぶりに再会した。いろいろと想像して、車はテスラかなと思ったら、案の定テスラだったので思わず笑ってしまった。購入から5年経つので、近々中国メーカーのEVに乗り換える予定だという。彼は以前、不動産関連の金融会社にいたので状況にも詳しく、不動産の価格は以前の3分の2くらいになったと教えてくれた。住宅への固定資産税がないため、どうしても投資の対象になりがちなのだという。
自宅の地下に専用のジムを作ってしまった彼の暮らしぶりを見ていると、中国の景気の悪さは微塵も感じられない。しかしその一方で、若者の生活の厳しさや、実家の経済力によって生じる不公平感が、社会に重くのしかかっていることも確かなようだ。
天津だと、子供は北京の大学とかに行かせたい感じかねえ?と聞いてみると、北京はちょっと政治的すぎるから、中国の南側の都市がいいんじゃないかなと思うよ、と少し意外な言葉だった。
「公式の言葉」を話す政治的なところからは距離を置くことが大事だと思う。北京は半分くらいの人間がそうだが、南は2割くらいになるから、深圳とか広州のような南がいいんじゃないかな、とのことだった。
北京では泰康美術館を訪れた。劉小東の展示で流れていたショートフィルムを眺めていると、そのカメラワークと人物の切り取り方に、ふと既視感を覚える。これは賈樟柯かなと思ったら、やはりその通りだった。彼の作品は大抵観ているつもりだったが、劇場公開もされないようなショートフィルムに、まさかこんな場所で出会えるとは思ってもみなかった。二人のつながりについては知らなかったのだが、賈樟柯が劉小東のドキュメンタリーを撮っていたらしい。
年齢を重ねてくると、自分が好きになるものや興味を惹かれるものは、実はどこかで繋がっていることに気づく。そして、それをなんとなく「匂い」で嗅ぎ分けられるようになっていくのだなと思った。
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今回中国旅行で新たにインストールしたアプリたち
こう見ると、中国のオンラインサービスも概ねいくつかのグループに属することが分かる

アリババ系のAmap、Qwen、飞猪
元テンセント系の美団、JD
百度系の萝卜快跑、Trip.com
网易系の有道翻译官