それでも経済再開のなぜ

 この記事にあるように、なぜいくつかの国が感染者数が全く減っていないのに経済を再開していくのかという話は、ここメキシコでの視点と他では大きく異なる気がする。

 

「インフォーマル経済」はメキシコ経済のキーワードの一つだが、都市で個人の小商いをしている人たちは経済的に国と距離があり、GDPの面でも、税収という面でも、捕捉されていない層がかなりの率(この記事では1/4に迫るとのこと)になる。

ちょっと見るとすぐ気が付くのだが、ここメキシコでは、歴史的に国への信頼度が低いことや、大資本が分かりやすく強欲すぎることから、中間層が経済の主役になり切れていない。そして、大金持ちは本質的に自由度が高く、節税やらなんやらで税金は誤魔化しがきくのであまり払わず(大体メキシコに住んでいるのかも怪しい)、貧乏人は貧乏人で税金の支払いと受益からそもそも隔絶されたところにいるので払わず、この国で最も国際競争力があるナルコビジネス(麻薬カルテル関連)は地下経済となっているので、国庫は常に金欠となっている。

そんなことは国もわかっているので、地下鉄は世界でも屈指の安さでインフォーマル層の通勤負担を軽減しているし、教育にも力を入れ、多国籍デジタル企業から税金を取る(Netflixにも今月から税金がかかるようになった)ことまでやっている。それでも、社会全体の底上げには程遠い。

 

日本でもそうなのだが、中間層のサラリーマンが最も税金の捕捉率が高い訳で、社畜とまでは行かないにしろ、会社があり国があり守るものがあるという中での位置付けから逃れにくい。ここが一定の厚さで存在しないと、国家としての制度が回っていかない。

まあその首輪との引き換えに、コロナのような状況になったら、ヨーロッパのように会社経由で実質的に休業手当をもらえたり、コロナ検査が無料で受けられたりする訳だ。
メキシコでは休業手当や給付金なんてものは聞いたこともなく、コロナ検査はもちろん有料で、「以前は6万くらいだったけど、今は1万円くらいに下がったらしいよ!よかったね」というのが親戚の会話だったりする。国民はそもそも政府に期待などしておらず、まともな扱いを受けること自体を想像すらしていない。
せいぜい「金持ちのクソ野郎がアスペンのスキーリゾートにプライベートジェットで遊びに行って、コロナを持って帰ってきやがって」と悪態をつくくらいが関の山という感じだ。

そういうわけで、右寄りの政権のブラジルも、左寄りのメキシコも、現状では結果的に同じ道を取らざるを得ないということになる。ブラジルはそれでも労働者に月1万円ほどの給付をしているようだが。


根本的には国民というか、社会の構成員の統合をどれだけ真剣に考えているかというところに各国の線引きが存在してしまうのだなあと、つくづく感じる。
アメリカのように統合を半ば諦めていたり、アシエンダ制度の残滓とインフォーマル都市経済のような中南米といったところから、シンガポール外国人労働者にいたるまで、コロナは見事に社会構造を浮き上がらせるなあ、というのが傍目から見ていても興味深い。