日系の航空会社に乗りたかった

海外に行きだして20年ほど経ち、もうどっぷりと中年の域に達した私だが、国際線では、日本の航空会社とはほとんど縁がなくここまで来てしまった。

海外出張もないわけではなかったが、大半は自腹の個人旅行であり、単純に一番安い飛行機で行くことに情熱を注いできた(別名:ケチ)。また、トランジットも積極的に楽しむタイプなので、仕事のように直行で早く行きたいというものでもなく、そもそも選択肢に入ってこない。

唯一韓国線だけは、就航している全会社に乗ってやろうと思ったことがあり、JALANAも乗ってみたが、かなりの短距離線なのでサービスを受けるというほどのものでもなかった。
とは言え細かい違いはあって、日系はコールドミールのコンビニ弁当のようなものを出すのに比べ、アシアナはホットミールだし、アシアナのコードシェアでエアソウル便になると、フルーツたっぷりのヘルシーな弁当を貰えて、韓国系のエアラインは良いなと思ったことを覚えている。

マイルも一応貯めてはいるが、陸マイラーblogがよく言うように、エコノミーで年数回観光に行くようなレベルでは全くメリットが出る可能性もないし、近所のアジアあたりは特典航空券の税金と手数料がLCCの運賃より高いみたいな状況がしばしば起こるので、全く囲い込まれる感じがしないのだった。

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ということで、航空会社の利用遍歴は、今や風前の灯火の旧ノースウエストが以遠権で成田からアジアに飛ばしていた便とか、ロシア系、韓国系、東南アジア系のトランジット便あたりから乗り始め、中東系やLCC、そしてトランジットホテル無料の中国系という感じで広がった気がする。

アメリカ便はまあどれも悪夢みたいなもので、この会社に乗りたいと思うようなことは全くなかったが、ヨーロッパ系はまれに庶民に手が届くときがあったKLMやVirginあたり以外の、エールフランスとかBA、ルフトハンザ、フィンエアーといった「お高いんでしょ」組はなかなか機会がなく、スカイチームになったエールフランスにデルタのマイルで乗れた時はなんだか結構うれしかったのだった。

日本から西アフリカに行くには、エールフランスのパリ経由が一番高くステータスだった時代があった気がする。今は中東系とかアフリカ系(ケニアとかエチオピア経由)が元気で、こちらも安くなった。

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まあどうしても出発地を本拠とするエアラインは高いし、日系2社はビジネス客しかターゲットにしていない感じだったのでさらに関係なかった訳だが、いつの間にか住所も海外になったので、日系が安いな、という時が出てきた。
ここメキシコから日本へはアエロメヒコとANAが直行便を出していて、日本発だと概ねアエロメヒコが安かったが、メキシコではANAが安いケースもある。

5,6,7月と毎月探したが、5月は連休で全く安いものがなくLAと香港経由で1,000ドル、6,7月は東京経由のシンガポール行きで900ドル位のチケットが見つかった。ということで、サービスで定評があるキャセイと、日系のANAでどんなもんやら、と思いながら乗ることになった。

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キャセイは傍目から見るとなんだかあまり儲かっている風ではないが、黒字になった途端に香港のライバル会社を買収して寡占化するというような感じで、今回もちょうどHNAからHK Expressを買っていた。会社の業績よりもサービスレベルの方が安定しているような感じだ。

日系は女性ばかりのCAだが、もう少し普通に男性がいる。CAの人たち間での序列が強いのか、少し軍隊調な感じの緊張感があるが、サービスは優しい。

大陸を超える長距離便には久しぶりに乗ったが、全体的にきちんとサービスが底上げされている感じで、一番印象に残ったのが、機内食のご飯だった。中国本土系の機内食で、ご飯の端が固いような感じで出てくるのに慣れた身からすると、完璧な温め具合で炊き立てのような感触で、往復ともに見事な加熱だった。
香港人の食への情熱は理解しているが、温度調整とかをかなり試行錯誤したうえでサービスに落とし込んでいる感じがする。

機内エンターテイメントもセレクションのメリハリが効いていて、サンダンスの短編ドキュメンタリーなんかが入っていたりして、悪くない。
細かい面まで改善をきちんと言語化して、全体のサービスレベルを向上させているように感じる。

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そして6月になり、ついに初めての日系、ANAはどうだろうなあと思いながら乗ったが、なんだか普通だなあという感想だった。米もまあおいしいね、位の感じで、キャセイのような感激までは行かない。機内エンターテイメントもキャセイに比べると映画のラインナップなど、なんだか惰性で選んでいるような感じで、もう少しやりようがあるんじゃないかという感じだ。

日本語で用が足せるのは新鮮だが、なんというか日本語で感謝するのは少し不便で、メキシコのようなコミュニケーションの国からすると、なんだかぶっきらぼうに言わなくてはいけないのが妙な感じだった。

一方で7月の印象はちょっと変わり、シャツについたパスタソースをぬぐっているのを目ざとく見つけて「シミ取りを持ってきましょうか?」と尋ねたり、寝過ごした機内食をさっと出してくれたりと、なるほど日本的とはこういうことかと感心する機会があった。
細かい場面でよく気が付き、相手の立場で何が欲しいかを考え、能動的に動く、というのを地で行く感じだ。個人の力量に左右され、なかなか言語化するのが難しい部分でレベルが高い。

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『ジェット・セックス――スチュワーデスの歴史とアメリカ的「女性らしさ」の形成』という本をちょっと前に読んだのだが、アメリカでは、CAの仕事はもはや尊敬されるものではなくなった、というような記述があって、なるほどなと思ったことがある。

よく見聞きするような航空会社ランキングではアジア系が上位を占めるケースが多いが、男女の不平等も含めて、まだアジアあたりではCAの社会的地位があり、そのあたりがサービスのレベルにつながっているのかな、という気もする。


そんなことをつらつらと考えながら、15時間のフライトを過ごしたのだった。