ウルムチのパズル

サウジアラビアの帰り道、新疆ウイグル自治区ウルムチに寄ってきた。

現地はとにかく寒く、帰ってから熱を出して寝込んだが、その後にネットで読んだものも含め、少し書いておこうかと思う。

旅程を組み立てたのは9月ごろだったが、10月くらいからBBCやロイターあたりのメディアがウイグル人の状況を大きく報じ始めたような気がする。大体以下のような感じだ。

NHKも7月ごろに取り上げていたようだ。

 

新疆のウイグル人口は大体1,000万人くらいのようなので、10人に1人が収容されているということになる。例えば日本の第二次大戦の犠牲者は人口全体の割合で5%も行かないので、まあこれが本当であれば観光客でも見ればわかるような影響があるかもしれないな、とは思った。

中国国内の観光地に行ったことがある人はよく分かるだろうが、既にあらゆる場所は観光地化され尽くされており、まあ食事をする以外に関しては、我々を含めた人民達は、共にその薄っぺらさというか、品のなさも含めて楽しむことになる。

新疆もそれが避けられる可能性は考えられず、大量に人も動くので、状況は何らかの形で伝わるだろうという気はしていた。

ということで、ざっと上にあげた4点のパズルを考え始めよう。

 

セキュリティ

UAEのシャルジャからウルムチまでは4時間のフライト。ちなみにウルムチから上海までも4時間とほぼ同じくらいかかる。飛行機は中東系のLCC、エアーアラビアだったが、大半の客は中国沿岸部の観光客で、ウルムチから国内線で各地へ戻るようだった。

入国の審査では大半が中国公民の方へ流れていく訳だが、ぱっと見中国人のようでも、それなりの数が外国人としてチェックを受けていたので、近隣国の国籍だったりするのかもしれない。

散々聞いてきたが、確かにセキュリティチェックが多い。

空港ではまず荷物チェック、いつもの指紋採取、その後にゴーグルのようなものを覗き込んで虹彩情報の取得、外に出るのにまた荷物チェック、という感じだった。最近開通した地下鉄でもチェック、街のビルの入り口は必ず荷物チェックがある。まあコンビニとか小さなレストランは普通に入れる。

アパート街などはおおむねブロックごとに囲われた入り口で、またメインストリートから一歩入ったような住居区(巷)も道を区切って柵が作られており、それぞれ認証を通らないと中に入れない。

テクノロジー的にはAndroidタブレットに、NFCのリーダーという感じで、「二代身份证」という中国人誰でもが持っているNFC機能が付いたカードをかざして出入りする。

もちろんカメラは至る所にある。

まあこれ、公共交通分野にはロクに投資しないアメリカ人とか、プライバシー重視の大陸ヨーロッパ人が最初に体験すると悪い意味で感心するのかもしれないが、中国のAppでの身分証の確認などを考えると想像がつくレベルだ。

街中のセキュリティチェックも、ウイグル人だけを狙ってというより、とりあえず機械に通しておけ、気が向いたら人力のボディチェックもするよ、という感じで、まあ中国全体がこの方向に向かっている中で、先に実現しましたというくらいには感じる。

空港などは比較的熱意をもってやっているが、全体としては安定の中国的適当さを保っている。

 

私は中国のAppも好物で、例えば今回の上海ではiPhoneSuicaのように交通カードを利用、チャージできるようにしてあるので、利便性との引換はどうしても肯定的な方だと思う。

ウルムチも紅山通というAppでQRコードを表示してバスに乗れるようになっており、入れてみたが身分証の認証が必要ということだった。

中国人のこういうテクノロジーへの熱意と、オンライン・オフライン問わず身分証はあらゆる場所で使われているので、どことなくこのような状況にも慣れてしまった気がする。


イスラム

モスクは街中にある。

まあサウジから来たので何も珍しくないのだが、2階がモスク、1階が商店街となっている汗腾格里寺など、中国に来れないと見られない気がして、なかなか興味深い。ウルムチに来た観光客は大抵写真を撮るのではないか。

2018年のストリートビューが以下の写真。

https://map.qq.com/#pano=35011041150908162827500&heading=269&pitch=4&zoom=1

以下は2018年8月の写真らしい。左側にセキュリティチェックの入り口が出来ている。

https://goo.gl/maps/xX7gSct7RUG2
※PCのみ

で、私が訪ねた際は道路に面した部分の入り口にもセキュリティチェックが増設され、黒色のより高い厳重な柵になっていた。

半年くらいでかなり厳重になったということのようだ。

言われるようにモスクが閉鎖されているのかはよく分からない。中庭や1階の商店街には問題なく入れた。他のモスクも概ね似たり寄ったりの感じだったが、確かにどこも人がいなかった。

ところで、中国の他の地域、例えば蘭州牛肉面の甘粛省イスラム教徒は多い。回族と呼ばれ中国語を話すムスリムがいて、ウイグルのように独自言語のムスリムとは異なるのだが、こちらの方はどうなっているのだろうか。

 

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上の写真は最近開通した地下鉄の風景だが、このようにほとんどの看板などは中国語とウイグル語で表記されている。ちなみに現代のウイグル語も色々と複雑らしく、

中国のウイグル語等のムスリム少数民族の言語は、かつてはソ連の影響でキリル文字化が図られ、中ソ国境紛争後はさらにソ連との違いを明らかにするためにピンイン風のラテン文字正書法が行われたが、1980年代の民族政策の転換によりアラビア文字が復活された。なお、現在のウイグル語で用いるアラビア文字はアリフ、ワーウなどに点を付加した文字を用い、8つある母音の全てを書き分ける独特なものである。

とのこと。

iPhoneウイグル語の入力を追加できて、バスの中でふと画面を覗き込んだらWeChatで中国語のあとウイグル語だったようなことも結構あった。

 

街の印象

省の博物館に足を延ばしてみる。無印良品も入るショッピングモールの向かいにあって、各少数民族の紹介などがあり、比較的冷静に解説してある。

新疆は乾燥しているので、良い状態のミイラがよく出ることで有名だ。また、特別展として中国で初めて考古学の共同調査を海外とやったのが日中合同の「ニヤ遺跡」調査らしく、30周年記念の展示をやっていた。

全体的に抑制の取れた展示だが、まあもちろんウイグル人独立運動の歴史などはあまり出てこず、漢民族の各王朝とこの地が深い交流があったことを示す展示品が多い。展示されるものと、されないものという区分が現在の「党中央」の歴史観の枠組みと合致するような感じだ。
 


観光の漢族の人たちに、この状況はどう映っているのだろうとも考える。

ロイターのレポートで、モスクを再利用した水タバコと酒を提供するバーが取り上げられている。まあ確かに、自撮りするには良い場所なのかもしれない。

新疆民街の北側あたりが豪快に空き地になっていて、これも元々はウイグル人街だったところの再開発だろうなという感じだった。テンセントの地図サービスで在りし日が見られる。

https://map.qq.com/#pano=35011003130821133043500&heading=110&pitch=-1&zoom=1

こういうのは自分の場所でもしばしば起きていることではあるので、国内観光客はあまり違和感を持たない気がする。

現地社会に同化すればするほど、少数派への眼差しは多数派が持つものと同様になっていく。まあ例えば以下のような感覚が根底にあった上で、区画整理を見ているはずだ。

そう言えば、最近見かけなくなりました - 芙蓉峰の如是我聞

 

食事

阿布都西克尔・热合木提拉さんが社長らしく、名前で検索したら、二道桥清真寺の伊玛目(これでイマーム)の人が出てきたが、同一人物なんだろうか。

二道桥清真寺_百度百科

ハッジ巡礼で気に入ったのか、いろいろと想像すると面白いが、こうやって中東イスラム世界との繋がりを感じるのは興味深い上に、美味しかった。

 

食べ物に関してはこの人のBlogで予習していたのが役に立った。

帰ってきて見てみたら、今の新疆では当局が外国人を追い出しきったので、英語教師なんて無理だ、という追記が出ていた。

How to Teach English in Xinjiang, China | The Ultimate Guide

 

強制収容所

強制収容所に関しては、正直なところウルムチを1日歩いた程度で何か分かる訳がない。

ただ、100万人説に関してはBBCのサイトで算定根拠が出ていた。まあこれも、やると決めたらあっという間に巨大な建物を恐ろしい勢いで作ってしまうという、いつもの中国の話ではある。

Wikiにも詳しい。

Xinjiang re-education camps - Wikipedia

 

ちなみに算定したのは以下の人らしい。

Adrian Zenz (@adrianzenz) | Twitter

 

What is China’s goal with the re-education camps? What would Beijing’s ideal outcome in Xinjiang look like? の回答が、街を歩いた実感でもあるので、以下に引用しておこう。

 

政府としては、イスラムの少数派がまずは民族文化的なアイデンティティで、そして社会理念の面で同化された状態が理想です。少数派は、中国の多数派である漢民族の文化や言語とも密に統合されていなければなりません。中国語にも十分堪能で、中国の一般的な社会生活に溶け込んでいる限り、許される範囲で文化習慣の違いを保ち、独自言語を使えるということです。

 

さらに政府としては、宗教的少数派が共産党とその方針に第一の忠誠を誓うことを望んでいます。中国人民として、宗教などのイデオロギーはあくまでも副次的なアイデンティティにとどまるべきであり、表面的な宗教的習慣や他の習慣は、それらが党の教義に従順である限りは続いていくかもしれない、というところです。

 

最後に、ウイグル人をはじめとする少数民族は、党に反対したり、象徴的な抵抗運動をしたりすることさえ夢にも思わないほど徹底的に脅迫されています。 再教育キャンプは、これまでにない強さでこれらの目的を達成できるよう、特別に設計されています。

 

最後に、日本に戻る空港で読んだのだけども、なんとも溜息がでる。

 

ウイグル族と思しきALBAiKのマネージャーさん、これからも頑張ってほしい。